SECTION1
発電所が安全に
稼働するために
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普段私たちは何気なく電気を使っていますが、いざ使えなくなると生活の様々な部分で立ちどころに支障をきたしてしまいます。 ここ数年は再生可能エネルギーによる発電量も増加してきましたが、まだ電気の大部分は発電所で作られ、工場や各家庭に供給されています。 そして、電気の安定供給は多くの人々の不断の努力によって支えられています。私はこれまで、企業研究者として原子力発電所が安全に稼働し続けられるための研究に携わってきました。 発電所では水を加熱して高温水を作り出し、蒸気タービンへ配管で輸送して発電しますが、私はこの高温水用配管の健全性を保つ研究や、配管が破断した場合の重要設備への影響評価といった研究に携わってきました。 このような研究を進めるためには、熱流体工学、伝熱工学などの知識を組み合わせ、配管内の高温水の流れ方や温度分布などを知る必要があります。
SECTION2
発電所配管の
健全性を保つ研究
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私がこれまで携わった研究の一つに、流れ加速型腐食に関する研究があります。 発電所の配管は炭素鋼と呼ばれる鉄を主成分とする配管がよく使われますが、温度や水質、材料によっては配管が腐食してしまいます。 腐食すると鉄の成分が水中へ溶けて流れ去り、腐食が進行します。配管形状によっては、流れが壁に激しく当たることで、腐食が速く進行し、配管肉厚の減少、ひいては配管破断事故を引き起こすことがあります。 そのような事故を引き起こさないためにも、定期的な配管の検査に加え、腐食が進行しそうな箇所の予測が重要です。発電所における配管内の流れの様子や腐食の進行度合いを直接確かめることはかなり大変です。 そこで、模擬実験や数値シミュレーションにより発電所の配管内を再現することが行われます。図1はオリフィスと呼ばれる絞り流量計背後の流れ場を数値シミュレーションにより再現した様子です。 このように流れ場の構造を再現した結果、オリフィス背後で発生した乱れにより配管中心付近を通る水が次々と壁面に輸送され、鉄成分を連れて流れ去るといったメカニズムが大分わかるようになり、腐食しやすい場所の特定ができるようになりました。 他に、配管熱疲労という研究にも現在携わっています。この現象は高温水と低温水が合流するような箇所で配管の膨張・収縮が繰り返し発生し、配管が疲労損傷する、つまり亀裂が発生するものです。T字型に接続された配管形状で引き起こされることが多く、大規模な熱水の漏洩は発生しないものの、原子力発 電所で発生すれば安全を最優先に考え発電所を停止して配管を取替えることになるため、経済的な損失を引き起こします。この熱疲労と呼ばれる現象を対象に数値流体シミュレーションを行い、時々刻々と変動する流れ場と温度分布を再現する研究を行っています(図2参照)。 この研究により、高温水と低温水が接する界面が揺らぐことで温度が強く変動することがわかり、熱疲労発生箇所の特定がしやすくなりました。
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図1 オリフィスの流れを数値シミュレーションで再現すると、多数の渦が発生している様子が確認された。この渦が配管の腐食進行に密接に関連している。
図2 字配管合流部での流れ場と温度分布の数値シミュレーション結果。高温水(赤色)が低温水(青色)と混合することで配管金属の温度が変動し、疲労損傷が生じる。
SECTION3
発電所の健全性を
予測する研究
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以上は配管の健全性を保つ研究でしたが、万一配管が破損し高温水が噴出した時の研究も行っています。 噴出する蒸気により、原子力発電所の重要機器を格納している原子炉格納容器内で温度・圧力が上昇し、格納容器の健全性が保てなくなる可能性があります。 温度・圧力は壁面へ伝わる熱量に大きく依存しているため、主要な壁面伝熱モードである壁面凝縮熱伝達を対象に、数値計算モデルの開発に取り組んでいます。
SECTION4
熱流体をキーワードとした
研究展開
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私が現在携わっている研究は発電やエネルギーに関連するものが中心です。中でも、熱流体工学が私の専門分野ですが、熱や流体は発電だけでなく、工業製品全般や、気象・河川などの自然界、住環境、医療など私たちの社会生活に密接に関わっています。今後は熱流体を キーワードに様々な分野での研究にも挑戦していきたいと思います。
ABOUT
ゼミ学生に聞いてみた。
歌野原先生ってどんな人?
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歌野原先生は温厚でやさしく、とても指導熱心な先生です。卒業研究のゼミでは難しい内容も多いですが、身近な事例を挙げてくれたり、専門用語をかみ砕いて説明してくれるなど、丁寧な指導のおかげで、研究内容について着実に理解を深めることができています。 また、学生の主体性を大切にしてくれるので、自ら考える力も鍛えられているように感じます。