SECTION1
スポーツ工学による
用具や機械の開発
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カキーン、ストラーイク、アウトー、今あなたは何を思い浮かべたでしょうか?そう、野球ですよね。野球では、ボールやグローブ、 バットなどの野球用具が欠かせ ません。スポーツには用具や設備が 不可欠で 、スポーツ選 手のパフォーマンス(発揮される運動能力)を最大限引き出すため、ハードウェア(用具や機械)の高性能化/ 高機能化は欠かすことができません。 また、使用者である人(選手)の運動や動作を妨げないようにする必要があります。 このような学術分野を「スポーツ 工学」と言い、人の運動力学を中心 に従来の機械工学に加え、人間工 学やバイオメカニクスなどを融合さ せた新しい分野の一つです。 これまではメーカーが用意した 機械や用具等の製品を選手自身の 好みに応じて選択し、選手は製品 に合わせて使用してきました。一方、 スポーツ工学を用いたスポーツ用 具や機械の開発は、高性能化はも ちろん、一人ひとりの選手の運動能 力に合わせた用具や機械を作っていくのです。あくまで主は選手(人) であり、機械や用具は従であることに主眼を置いています。 ここでは、私が取り組むスポーツマシンの高性能化の研究開発について、ご紹介します。
SECTION2
四ローラー式
ピッチングマシンの開発
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野球の投手は、直球はじめカーブ、 シュート、フォークボールなど様々な変化球を投げます。 ピッチングマシンは、実際の投手の代わりを務めるため、これらの変化球をすべて投球できる能力が必要です。 しかし、バッティングセンターに行った人ならわかると思いますが、市販のマシンの投球能力はあまり高くはありません。 球速は問題ないものの球種には限界があり、コントロール(投球精度)もストライクが入る程度で、あまり良くありません。 さらに、市販のマシンでは、投げることが難しい球種(変化球)があります。やや古いですが、 アニメ「メジャー」で主人公の茂野吾郎選手が投球している魔球とも呼ばれる「ジャイロボール」がその一つです。 ジャイロボールは、初速と終速の差が小さいため、打撃時のタイミング が取り難く、詰った打撃になり易いという特徴があります。 このジャイロボールを投球できるマシンの研究開発を行いました。通常のローラ式マシンは、上下二つのローラしかありませんが、上下、左右の四つのローラを有する四ローラ式ピッチングマシンです。 このマシンの最大の特徴は、左右の二つのローラを交差できる機構を持つことです。 ボールにねじり回転を与えることによって、ジャイロ回転、すなわち「ジャイロボール」を投球することができます。 また、野球ボールには幅8mm、 高さ1mm程度の縫い目がありますが、これが投球精度を悪化させる主な原因です。 そこで、投手の手指のようなボールが滑り難く柔らかいウレタンゴム製のローラを数値シミュレーションと最適化手法によって設計し、開発を行いました。 その結果、開発したピッチングマシンは、球速が160km/h超、ジャイ ロボールを含むすべての変化球が投球可能でした。 また、その投球精度は、ホームベース上で150mm未満であり、ボール2個分(ボールの直径は約72mm)未満に収まりました。 これは、キャッチャーが要求したコースつまりミットをほとんど動かすことなく捕球できるとても高い制球精度でプロ野球の投手に匹敵する高性能マシンであると言えます。
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図1 四ローラ式投球メカニズム:上下左右の四ローラの回転数を任意に調整し、左右のローラを交差させて投球すると魔球ジャイロボールが投球できる。
図2 ボール投入ロ:センサとリレーが搭載されており、ボールが1個ずつ安全かつ確実に投球できる。
図3 開発した四ローラ式ピッチングマシン:中央の丸い発射ロからボールが投球される。発射口の高さや方向は背面にある液晶パネルで簡単に変更でき、オーバースローからアンダースローまですべての投手の投球が再現可能。
SECTION3
バドミントン、卓球、
幅広いスポーツ機械の開発
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上述したピッチングマシンに続き、高性能バドミントンマシンの研究開発も行いました。シャトルの最高速度は、トップアスリートと同等の約300km/hを記録しました。 また、スマッシュやクリア、ヘアピン等の様々なショットを希望する速度やコースに連続して繰り出すことができ、初心者からトップ選手までの幅広い選手の練習機として、十分対応できる実用性のあるマシンです。 現在、4年生の卒業研究のゼミ学生4人と一緒に、魔球の秘密を解き明かすため、螺旋回転するジャイロボール(前頁の写真参照)の空力特性や飛翔軌道に関する研究を行っている最中です。 また、高性能卓球発射マシンの開発と卓球ラケットに使用される高スピンボールが繰り出せる卓球用ラバーの研究開発中です。今後もスポーツ選手に寄り添った用具や機械の研究開発を行い、皆様の前に開発した新型マシンを近々お見せできると思います。 どうぞ、ご期待ください。
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図4 2ローラ式バドミントン用シャトル発射マシンの発射機構:シャトルの羽根(水色部分)は軽くて壊れやすいため、硬い半球形状のコルク(紫色部分)を2つのゴムローラで挟んで発射する機構を考案。ローラの材質や形状、2つのローラ間隔の最適化を行った結果、バドミントンマシンとしては最速の初速約300km/hを達成した。
ABOUT
ゼミ学生に聞いてみた。
酒井先生ってどんな人?
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本格的な研究は初めてなので、難しいことも多いですか、、酒井先生は、いつも優しい雰囲気で、分からない箇所があればその都度丁寧に説明してくれます。 先生が親身になって教えてくれるので、一つのテーマに打ち込むことに、とてもやりがいを感じています。